予定価格・最低制限価格・低入札価格調査とは|小さな会社が入札で値付けを間違えないための基本
はじめて官公庁や自治体の入札に出ようとすると、まず迷うのが「いくらで出せばいいのか」です。
民間の見積なら、相手と話しながら金額を調整できます。入札は違います。一度出した金額で勝ち負けが決まります。高すぎれば落札できません。安すぎても失格になったり、調査を受けたりすることがあります。
その仕組みを理解するカギが、予定価格・最低制限価格・低入札価格調査の3つの言葉です。この記事では、Web制作・動画・翻訳・パンフレット・イベントなどの小さな会社やフリーランスの方に向けて、この3つの意味と、値付けの基本的な手順をまとめます。
※この記事は制度の一般的な説明です。個別の案件の判断は、必ずその案件の公告・入札説明書と、発注機関の窓口で確認してください。
1. 3つの言葉の意味
| 言葉 | ざっくり言うと | 主な根拠 | 入札する側への影響 |
|---|---|---|---|
| 予定価格 | 発注者が「この金額までなら払う」と決めた上限 | 会計法 第29条の6、予算決算及び会計令(予決令)第79条・第80条 | 予定価格を超える金額では落札できない |
| 最低制限価格 | 「これより安い入札は失格」とあらかじめ決めた下限 | 地方自治法施行令 第167条の10 第2項(自治体) | 下回ると、最安値でも落札できない |
| 低入札価格調査 | 一定の基準より安い入札について、本当にその金額でできるかを調べる手続 | 予決令 第84条・第85条(国)、地方自治法施行令 第167条の10 第1項(自治体) | すぐ失格ではないが、説明や資料の提出を求められる。結果によっては落札できない |
予定価格
予定価格は、発注者が仕様書などをもとに決める「契約金額の上限」です。予決令第80条第2項では、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多い少ない、履行期間の長さなどを考えて、適正に決めることとされています。
国の場合、予決令第79条で、予定価格は内容が見えない書面(封書)にして、開札の場所に置くこととされています。つまり、入札前には知らされないのが原則です。
自治体では、予定価格を入札前に公表する「事前公表」をしているところもあります。ただし総務省・国土交通省は、事前公表には「予定価格が目安になって競争が制限される」「談合がしやすくなる」といった弊害があるとして、弊害があれば事前公表の取りやめ等の適切な対応を行うよう求めています(主に公共工事についての通知です)。公表するか、いつ公表するかは、発注機関や案件ごとに違います。
最低制限価格
最低制限価格は、自治体が「契約の内容に合った履行を確保するため特に必要がある」と認めたときに、あらかじめ設けられる下限の価格です(地方自治法施行令第167条の10第2項)。
これを下回った入札は、たとえ一番安くても落札者になれません。予定価格の範囲内で、最低制限価格以上の入札のうち、一番安い人が落札者になります。
低入札価格調査
低入札価格調査は、安すぎる入札をすぐ失格にするのではなく、「その金額で本当にきちんとできるのか」を調べる制度です。調査の結果、品質が守れないおそれがある、または公正な取引の秩序を乱すおそれがあると判断されると、次に安い人が落札者になることがあります。
2. 国と自治体の違い
ここが一番まちがえやすいところです。
国(省庁など)
- 会計法・予決令には、自治体のような最低制限価格の規定はありません(長野県のガイドラインの比較表でも、最低制限価格は地方公共団体の制度とされています)。安すぎる入札への対応は、主に低入札価格調査で行います。
- 予決令第84条では、予定価格が1,000万円を超える工事・製造その他の請負契約が対象とされています。
- 財務省と中小企業庁の調査(令和7年3月)では、工事以外の契約でも18省庁すべてが低入札価格調査制度を導入しており、多くの省庁で調査の基準を予定価格の6割などに設定していました。
自治体(都道府県・市区町村)
- 最低制限価格を設けることができます。低入札価格調査を使うこともあります。
- どちらを使うか、どの業務が対象か、基準をどう計算するかは、自治体ごとに決めています。たとえば名古屋市は、清掃・警備・設計などの業務委託の一部に最低制限価格制度を、総合評価落札方式などに低入札価格調査制度を適用しています。
つまり、同じような「Webサイト制作」でも、国の案件か自治体の案件かで、安く出したときの扱いが変わります。公告や入札説明書に「最低制限価格を設定する」「低入札価格調査の対象」と書いてあるかを、必ず確認してください。
3. プロポーザルの場合
Web制作・動画・パンフレット・イベントの仕事は、入札ではなくプロポーザル(企画提案)方式で募集されることも多いです。
プロポーザルは、企画提案書やヒアリングで内容を評価し、最も適した事業者を選ぶ方式です。価格は評価項目のひとつで、「提案上限額」が示されることがよくあります。
価格点の比重は案件によって違います。たとえば徳島市のガイドラインでは、価格評価の計算方法の例を示したうえで、配点は業務内容に応じて定めるとしています。募集要項の「評価基準」「配点表」を見れば、価格がどのくらい重視されるかがわかります。 価格の配点が小さい案件で無理に値下げしても、ほとんど点が伸びないことがあります。
4. 値付けの手順(チェックリスト)
- [ ] 仕様書を読み込む:作業の範囲、納品物、回数、期間、打ち合わせの回数、修正の回数を書き出す
- [ ] 人件費を積み上げる:作業ごとに「何人 × 何日(何時間)× 単価」を出す
- [ ] 外注費を入れる:撮影、翻訳チェック、印刷、会場、機材など、自社でやらない部分の見積をとる
- [ ] 経費を入れる:交通費、ソフトやサーバーの費用、送料、保険など
- [ ] 利益と予備を乗せる:修正や確認待ちで日数が延びることを見込む
- [ ] 過去の金額を調べる:調達ポータルの「落札実績情報」で、同じ機関や同じような案件がいくらで落札されたかを見る。自治体はそれぞれのサイトで入札結果を公表していることが多いです
- [ ] ルールを確認する:予定価格の公表の有無、最低制限価格・低入札価格調査の有無、消費税の扱い(入札書は税抜で書く案件が多い)
- [ ] 「この金額で最後までできるか」を自問する:赤字にならない下限を、自分の中で先に決めておく
5. よくある失敗
① 安くすれば勝てると思い込む
自治体の案件で最低制限価格を下回ると、一番安くても失格です。国の案件でも、低入札価格調査で説明を求められます。前述の財務省・中小企業庁の調査では、調査の結果失格などになった事例の原因として「仕様書の錯誤(読み違い)」が最も多くなっていました。
② 仕様書の作業を見落とす
「サイト制作」だけ見て、原稿作成、写真撮影、アクセシビリティ対応、公開後の保守などを見落とすと、受注しても赤字になります。
③ 税込と税抜を取り違える
入札書に書く金額が税抜か税込かは、案件ごとに指定されます。説明書の記載を必ず確認してください。
④ 過去の落札額をそのまま使う
過去の金額は参考になりますが、仕様が同じとは限りません。必ず自社の積み上げと見比べてください。
まとめ
- 予定価格は「上限」。原則として入札前には公表されませんが、事前公表する自治体もあります。
- 最低制限価格は「下限」。自治体が設けることができます(国の会計法令には規定がありません)。
- 低入札価格調査は「安すぎる入札の確認」。国では主にこちらが使われます。
- 値付けは、人件費・外注費・経費の積み上げと、過去の落札実績の確認の両方で考えます。
- プロポーザルでは、配点表で価格の比重を確認します。
最初の1件は、金額の決め方そのものが一番の学びになります。無理のない金額で、まずは1件出してみることをおすすめします。
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参考資料
- 予算決算及び会計令(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/322IO0000000165
- 地方自治法施行令(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/322CO0000000016
- 会計法(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000035
- 総務省「低入札価格調査制度及び最低制限価格制度に関する実態調査の結果等について(通知)」(令和7年1月22日):https://www.soumu.go.jp/main_content/001081122.pdf
- 総務省・国土交通省「公共工事の入札及び契約の適正化の推進について」(令和6年12月16日):https://www.soumu.go.jp/main_content/001026061.pdf
- 財務省・中小企業庁「国等における(工事を除く)低入札価格調査制度の実態調査」(令和7年3月):https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/kankouju/reference/202503_kuni_chousa.pdf
- 長野県「最低制限価格制度・低入札価格調査制度に関するガイドライン」(令和7年12月):https://www.pref.nagano.lg.jp/kensa/documents/2512_guideline.pdf
- 名古屋市「最低制限価格制度・低入札価格調査制度」:https://www.city.nagoya.jp/jigyou/nyusatsu/1014157/1014183.html
- 徳島市「プロポーザル方式の実施に関するガイドライン」:https://www.city.tokushima.tokushima.jp/shisei/keizai/nyusatsu/chotatsu/proposal-guidelines.files/proposal-guideline.R7.4.1.pdf
- 調達ポータル:https://www.p-portal.go.jp/